前回のコラムでは、B型事業所の工賃が上がりにくい3つの理由――「単価の壁」「営業の壁」「ノウハウの壁」を整理しました。今回はその1つ目、単価の壁を数字で見える化します。「軽作業からPC作業へ」と言葉で言うのは簡単ですが、実際にどれくらい差があるのか。現場で15年、軽作業の委託を続けてきた私たちだからこそ、正直な数字でお話しします。
軽作業の単価を、時給に換算してみる
まず、私たちが長年扱ってきた軽作業の相場から。内職・受託軽作業の一般的な単価は、おおよそ次の水準です。
| 作業内容 | 単価の目安 | 時給換算の目安 |
|---|---|---|
| 袋詰め(便箋・ネジなど) | 1袋 0.5〜5円 | 100〜200円程度 |
| シール貼り・ラベル貼り | 1枚 0.1〜1円前後 | 100〜300円程度 |
| DM封入・箱折り | 1件 0.5〜3円前後 | 200〜400円程度 |
厚生労働省の家内労働に関する調査でも、時給換算で「200〜400円未満」の層がもっとも多いという結果が出ています。つまり軽作業は、どれだけ習熟しても時給換算で数百円が上限という構造の仕事なのです。
誤解のないように書きますが、これは軽作業が「悪い仕事」だという意味ではありません。手順が明確で取り組みやすく、利用者さんの体調や特性に合わせやすい。工賃の土台として、これからも大切な役割を担い続けます。問題は、軽作業「だけ」では平均工賃24,141円の先へ進みにくいという一点です。
では、PC作業の単価はどうか
次に、私たちが「制作部」として導入を進めているPC作業の相場を見てみます。
① 文字起こし(テープ起こし)
会議やインタビューの音声をテキスト化する仕事です。クラウドソーシング市場では録音1分あたり50〜100円が相場。10分の音声なら500〜1,000円の仕事になります。作業時間は10分の音声で約1時間が目安なので、時給換算で500〜1,000円。軽作業の2〜5倍の水準です。
しかも今は、AIの自動文字起こしを下書きに使い、「聞き直して直す」工程に集中するやり方が主流になりつつあります。ゼロから打ち込む必要はありません。
② 動画のテロップ入れ
動画に字幕(テロップ)を付ける仕事です。動画編集の中でもっとも基本的な工程で、YouTube需要の拡大とともに発注が増え続けています。カット編集まで含む案件では1本数千円〜数万円の世界ですが、テロップ入れ単体でも軽作業とは桁の違う単価が付きます。手順書とテンプレートがあれば、「決められた位置に、決められたルールで文字を置く」作業として分解できるため、実はB型の現場と相性が良い仕事です。
③ SNS画像・サムネイル制作
Canvaなどのテンプレートを使い、文字や写真を差し替えてSNS投稿画像やサムネイルを作る仕事です。デザインをゼロから考えるのではなく、「型に流し込む」作業として設計すれば、1件あたり数百円〜の単価を安定して積み上げられます。タップとキーボード入力が中心なので、細かい手作業が苦手な利用者さんが活躍できるケースもあります。
単価差の正体は、「スキル」ではなく「設計」
ここで大事なことを1つ。「時給換算で2〜5倍」と聞くと、「それだけ難しい仕事なのでは」と感じるかもしれません。でも15年現場を見てきた実感として、単価の差はスキルの差というより、仕事の設計の差です。
軽作業の単価が低いのは、発注側にとって「誰でもできるコスト削減の外注」だから。一方、文字起こしやテロップ入れは、発注側にとって「自分でやると時間が溶ける、価値のある外注」だから単価が付く。作業そのものは、手順書・テンプレート・見本があれば、一つひとつは軽作業と同じ「決められた手順を丁寧に繰り返す仕事」に分解できます。
丁寧に、根気よく、決められた通りに。――これは、B型事業所の利用者さんが日々の軽作業で発揮してきた強みそのものです。
残る課題は「誰が教え、誰が品質を守るか」
もちろん、壁が消えるわけではありません。作業を分解した手順書を誰が作るのか。仕上がりの検品を誰がするのか。そもそも案件を誰が獲ってくるのか。前回挙げた「営業の壁」「ノウハウの壁」は、単価表を眺めているだけでは越えられません。
私たちの答えは、**「この部分は事業所が抱えず、外に出す」**です。案件獲得・ディレクション・教育マニュアル・検品を運営ハブが担い、事業所は「できる作業」に集中する。この分業があってはじめて、職員1人・未経験からでもPC作業の単価に手が届きます。就労共創ネットワークは、まさにこの分業を仕組みにしたものです。
次回予告:PC作業の導入に、いくらかかるのか
「単価が高いのは分かった。で、始めるのにいくら必要?」――次回は、PC作業の立ち上げに必要な機材と初期投資をテーマに、何を・いくつ・いくらで揃えればいいのか、助成金の活用も含めて具体的にお伝えします。
工賃向上の「次の一手」を検討中の事業所さまは、個別相談(無料・オンライン)もお気軽にどうぞ。貴事業所の作業席数や利用者さんの状況に合わせて、一緒に試算します。
注:本文中の単価はクラウドソーシング市場・内職相場の一般的な目安であり、案件や地域により変動します。厚生労働省「令和6年度工賃(賃金)の実績について」によるB型事業所の全国平均工賃は月額24,141円です。
